シフトに穴を開けられぬと、仕事で葬儀を休めない罪悪感に苛まれてはいませんか。万年人手不足の職場を前に「休みたいと言い出せない」「参列を諦めるしかないのか」と、自分を責める必要は一切ないのです。私の家族もまったく同じことで深く葛藤し、大切な家族との別れの中で姉が下した決断に、胸を締めつけられた経験があります。仕事への責任と故人への感謝の狭間で揺れるあなたへ、参列の二者択一をほどく現実解を、事実と経験から、静かに紐解いていきます。
第1章 「休めない自分」を責めなくていい理由
1-1 幼い頃の恩義と職場の責任――あなたを苛む「二重拘束」の正体
遠方に住む叔父の悲報が届いた朝。
頭に浮かぶのは、幼い頃に優しく手をとってくれた温もりや、親族の集まりでかけてくれたあたたかな声です。車で片道7時間という距離や、高齢の父親が1人で長距離運転して向かう不安を思えば、本当は今すぐにでも駆けつけて付き添いたい。
しかし同時に、頭を離れないのはシフト表と職場の光景。「月に10日ほどのパート勤務なのに、自分が休んだら現場のレジや作業が回らなくなる」「万年人手不足の店で、急な欠勤なんて頼めない」――そんな葛藤が、胸の奥を強く締め付けますね。
この苦しさの正体は、自身に欠陥があるからでも、冷情だからでもないのです。幼少期に世話になった恩義に報いたいという道徳的な義務と、穴を開けて同僚に負担をかけたくないという職場への社会的責任の狭間で身動きが取れなくなる二重拘束(ダブルバインド)に陥っているからなんですよね。
どちらを選択しても、大切な誰かを裏切ってしまうという罪悪感が残ってしまう構造。
だからこそ、今深いたまゆら(玉響)の迷いの中で後ろめたさに苛まれていること自体が、双方に対して真摯に向き合おうとしている誠実さの証にほかなりません。
1-2 「自分だけがわがままなのか」という錯覚と、踏み出せない逡巡
「他店からの応援を頼めば、休むこと自体は可能かもしれない」
頭の中では選択肢が浮かびながらも、「パートの身でそこまで店や他店に負担をかけていいのだろうか」「私用で周囲を巻き込むのは、身勝手なワガママなのではないか」と躊躇してしまう。周囲のスタッフがギリギリの人数で日々現場を回している姿を知っているからこそ、その一言を言い出すことに強い罪悪感を抱いてしまうものです。
ただ、選択肢が見えていてなお踏み出せないのは、弱いからでも優柔不断だからでもないんです。都合だけを優先させることなく、目の前の現場と同僚たちのことを誠実に想っているからではないでしょうか。
静かなお香の煙が空へ消えていくように、故人を悼む気持ちは誰にも脅かされるべきではありません。自分を責める手を一度止めて、泥臭い迷いそのものを優しく受け止めてあげてください。
「休めない自分」を責めなくていい理由

どちらを選んでも誰かに申し訳ないと思ってしまうのは、あなたが関わるすべての人を大切にしている証しです。
その迷いそのものが、すでに故人へのあたたかな手向けになっていますよ。
第2章 「行く」か「諦める」かだけじゃない、4つの現実的な道
全休をとって車で片道7時間の道のりを往復し、通夜・告別式の2日間に完璧に参列する。それが無理なら、いさぎよく参列を諦めて家でじっとしている――。
真面目で責任感の強い人ほど、「100点か0点か」の二者択一で思考が固まりがちです。大手葬儀社の一般的なマナーサイトではあまり語られない、現実的な第三の道が存在します。職場のシフト制約を受け入れつつ、叔父様への感謝を届けるための4つの現実解を紐解いていきましょう。
通夜と告別式、香典は2回必要?
2-1 通夜のみ参列(告別式は欠席)という選択
1つ目の選択肢は、夕方から夜にかけて執り行われる「通夜」のみに絞って参列し、翌日の告別式は辞退して仕事に向かう方法です。
深みのある礼服に身を包み、静寂が広がる式場へ足を運ぶ。通夜の席で叔父様の遺影と向き合い、心の中でこれまでの恩義に感謝を告げる。顔を出す時間自体は短時間であっても、駆けつけて直接お別れを伝えたという事実は、心に大きな区切りをもたらしてくれますね。
一般的に通夜は18時〜19時頃から執り行われることが多いため、前日のシフトを調整するか早退を取り、夜のうちに参列を済ませておけば、翌日の告別式当日のシフトには穴を開けずに通常出勤することが可能です。2日間丸々欠勤して遠方を往復するよりも職場への影響を抑えられ、親族としての義理と仕事への責任を両立させる現実的な折衷案となります。
2-2 告別式のみ参列(通夜は欠席)という選択
2つ目は、初日の通夜には参列せず、翌日の「告別式(葬儀)」の本式のみに絞って参列するアプローチ。
近年では都市部を中心に通夜の簡素化が進んでおり、顔を出すだけの通夜よりも、最後のお別れ(出棺や火葬)に立ち会える告別式を重んじるという考え方も広く定着してきました。通夜の日は通常通り職場に出てシフトを守り、告別式が行われる2日目のみ仕事を休む(あるいは半休をとる)形をとります。
生花の香りと祭壇の温もりに包まれる式場で、叔父様を送り出す最後の瞬間に立ち会うことができるため、お別れの式に参列できなかったという未練を残しにくくなりますね。職場の同僚に対しても欠勤を最小限に抑えたという誠意を示すことができ、心理的ハードルを大きく下げられる道筋ではないでしょうか。
2-3 参列辞退+香典・供花送付、父への代理参列依頼
3つ目は、現地へ足を運ぶこと自体を辞退し、香典や供花の手配、ならびに現地へ向かう家族への代理参列を託す方法です。
片道7時間という長距離移動は、往復で14時間もの移動時間と大きな体力・交通費コストを伴うもの。万年人手不足の職場でどうしてもシフトが動かせない場合、無理に身を削って駆けつけることだけが正解ではありません。
具体的には、叔父・叔母の相場である1万円〜2万円の香典を事前に手配し、式場へ打診して供花(きょうか)を贈る手続きを行います。そして、現地に向かう高齢の父親に対し、「代わりに香典を手渡してもらい、叔父様によろしく伝えてほしい」と代理参列を依頼する。父親にとっても、気持ちと香典を預かって参列することで一人で向かう心細さが和らぎ、式場には名前が添えられた供花が飾られます。遠方にいながらにして、形と心双方で最大限の弔意を示すことができる立派な選択肢なんですよね。
>代理参列を頼む際の香典の渡し方
2-4 忌引+有給休暇の併用という制度活用
4つ目は、会社の就業規則に則った制度の組み合わせによる現実解。
労働基準法上に忌引休暇の法的義務はなく、各企業の就業規則に委ねられています。特に叔父・叔母(3親等)の場合、就業規則上「忌引の対象外」とされていたり、認められても「1日のみ」が相場となっているケースが少なくありません。
忌引が0日〜1日しか認められない場合、不足する日数分を有給休暇で補填して併用することが実務上の基本。ただ、有給休暇は事前に申請することが原則であり、当日急に申請する事後振り替えは会社の裁量(一般的に、会社側に事後振替を認めなければならない法的義務はないとされています)となる点には注意が必要です。
事前に上司へ就業規則の忌引規程を確認したうえで、足りない日数を有給休暇として申請させてほしいと誠実に打診するようにしていただけますか。制度を正しく活用して休みを確保する姿勢が求められます。
儀礼の形はひとつではありません。
どんなに小さく見える一歩であっても、あなたが心を込めて選んだ道なら、それが一番の正解です。
第3章 上司への伝え方、同僚への気遣い、復帰後のフォロー
急な訃報に接したとき、パートという立場で職場のシフトに穴を開けてしまうという後ろめたさから、上司へ電話をかける手が震えてしまうことがあります。
礼儀と手順を踏んだ誠実なコミュニケーションをとることで、職場の摩擦を抑え、同僚への負担感を和らげることが可能です。
3-1 第一報は「判明した時点」で――上司へ伝えるべき4つの必須項目
訃報を聞いたとき、最も避けるべきなのは日程や詳細がすべて決まるまで連絡を控えること。葬儀の日時や式場が未確定であっても、叔父が亡くなり休みをいただく可能性があるという第一報は、判明した時点で即座に上司へ伝えるのが鉄則です。
連絡手段は直接声を届ける電話が基本。深夜や早朝、職場の混雑時間帯で電話がつながりにくい場合は、まずはメールやチャットツールで第一報を入れ、追って電話をかけるのがマナーですね。
電話で伝えるべき項目は、以下の4点に集約されます。
- 故人との続柄(例:遠方に住む母方の叔父)
- 死亡日(例:本日未明)
- 通夜・告別式の日程と場所(例:〇月〇日通夜、〇月〇日告別式/決まり次第追って連絡)
- 取得希望日数および欠勤希望日(例:通夜参列のため〇日夕方〜〇日欠勤希望)
受話器越しに漂う緊張感に胸が押し潰されそうになるかもしれません。ですが、感情的にならず客観的な事実を一つひとつ丁寧に伝える姿勢こそが、上司にとっても今後のシフト繰りを迅速に進める最大の助けとなります。
3-2 現場の摩擦を最小限に抑える「NG例」と「OK例」の言い回し
万年人手不足の現場において、単に私用でお休みをくださいと切り出してしまうと、上司や周囲から自己都合による突発的なわがまま欠勤と受け取られ、不要な不満を生む原因になります。就業規則や引継ぎに対して誠実に向き合っている姿勢を言葉で明示することが重要ですかね。
>香典を辞退したいときの会社への伝え方
【NG例】
「個人的な用事ができてしまったので、〇日と〇日のお休みをいただけないでしょうか。人手不足のときに大変申し訳ありません」
※理由を濁し、就業規則への言及や引継ぎの姿勢が欠けているため、曖昧で身勝手な印象を与えてしまいます。
【OK例】
「叔父(3親等)が亡くなり、〇月〇日に通夜が執り行われることになりました。会社の就業規則を確認いたしましたところ、3親等は忌引対象外(または1日)となっておりますので、不足する日程分として有給休暇を〇日申請させていただけますでしょうか。欠勤中の〇日につきましては、同僚の〇〇さんに業務の引継ぎをお願いしております」
OK例のポイントは、「忌引規定の事前確認」「有給休暇の正式な申請」「同僚への引継ぎ状況」という3つの事実をセットで伝える点にあります。単なる身勝手な休みではなく、規則に則り手続きを踏んだ欠勤として上司に認識させることができ、職場の心理的ハードルを大きく下げることができますね。
3-3 同僚の負担感を和らげる「3つの先回り気遣い」
自分が休むことで、現場に残された同僚たちの作業量が物理的に増えてしまうことは避けられません。一人で罪悪感を抱えて閉じこもるのではなく、先回りした気遣いと具体的な工夫で同僚の心理的負担をほぐしていきましょうか。
- 欠勤当日の朝、同僚グループチャットへ短文を送る出勤前の慌ただしい時間帯に、作業をカバーしてくれる同僚たちへ感謝と謝罪の一言を届けます。文例:「急な欠勤となり、大変申し訳ありません。本日のシフトをカバーしてくださる皆様、本当にありがとうございます。復帰日にしっかりと御礼をさせていただきます」
- 欠勤中の業務をあらかじめリスト化・見える化しておく担当業務がどこまで進んでいて、誰に何を代行してもらうかをメモやチャットで上司・同僚に共有します。「レジ締めは〇〇さん、商品の発注業務は〇〇さんにお願いしてあります」と明文化しておくことで、現場の混乱を防ぐことができますね。
- 復帰後のシフトで「埋め合わせ」を自主的に申し出る「次回出勤日、もし可能であれば通常より1〜2時間長く残って作業をお手伝いします」といった具体的な返礼の姿勢を事前に提示します。助け合いの意思を言葉にすることで、同僚からの受容感も大きく変わってきます。
3-4 復帰日の挨拶と菓子折りの選び方・渡し方の実務
無事に葬儀や必要な手続きを終え、職場へ復帰する日。
黒の服からいつもの作業着に着替えるとき、胸の中にはどんな顔をして出勤すればいいのだろうという気まずさが残っているものです。復帰当日は、直接顔を合わせた挨拶と適切な心遣いで感謝の気持ちを形にしましょう。
【挨拶の言葉】
朝一番、上司と同僚一人ひとりに対して直接向き合い、「おかげさまで無事に葬儀を終えることができました。急な欠勤で皆様に大変なご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした。今日からまたしっかり働きますので、よろしくお願いいたします」と丁寧にお辞儀を添えて伝えます。
【菓子折りの選び方と相場】
菓子折りの選び方と相場の要約
復帰時に持参する菓子折りは、休憩室などで手軽に分け合える「個包装の焼き菓子(クッキーやフィナンシェなど)」が最適です。相場は1人あたり100〜150円程度、10〜20人規模の職場なら2,000〜3,000円前後が目安になります(20人を超える大所帯なら3,000〜5,000円程度)。気を使わせすぎない、ちょうどいい価格帯を意識するとよいですね。個包装で、日持ちがして、片手でさっと食べられるものを選ぶと、忙しい休憩時間でも受け取りやすく喜ばれます。
【渡すタイミングとフォローの具体化】
始業前や朝礼のタイミングで「皆様で召し上がってください」と休憩室に設置するか、手渡します。その際、「欠勤中に〇〇の業務を代わりに進めていただき、本当に助かりました。今週の〇日、〇〇さんのシフトを一部代わりますね」と具体的な業務フォローの宣言を添えることで、形だけの謝罪に終わらない誠実な感謝を伝えることができます。
誠意を言葉と形にして手渡せば、職場の仲間はきっと温かく迎えてくれます。
恐れずに、いつもの笑顔で扉を開けてくださいね。
第4章 葬儀に「すぐ帰る」という選択肢の作法
「参列するなら、最初から最後までの儀式や通夜振る舞い(会食)に付き合うのが当たり前」「焼香だけ上げて途中で帰るなんて、遺影の叔父やご遺族に対して失礼にあたるのではないか」
真面目な方ほど、そうした観念にとらわれがち。万年人手不足の職場へ戻らなければならない現実や、翌日の早朝シフトを抱える中で、「すぐ帰る」「途中で退席する」という選択は決して非礼ではなく、現実的で尊重されるべき参列の形です。
葬儀に「すぐ帰る」という選択肢の作法

4-1 「途中で帰る」「すぐ帰る」は非礼ではない――罪悪感を手放すための視点
喪服に身を包み、受付で袱紗からそっと香典を取り出す手。式場内に一歩足を踏み入れれば、澄んだお香の香りと凛とした静寂が胸を満たします。
その場に留まり親族とともに故人の思い出を語り明かしたいという気持ちは山々であっても、頭の片隅には仕事に戻らなければならない現実が重くのしかかっているはず。
葬儀において最も重要なのは滞在時間の長さではなく、直接足を運び、故人を偲ぶ意思を示したという事実そのものなんですよね。
たとえ式場に留まる時間がわずか10分や20分であったとしても、静かに香をくべ、故人への感謝を心の中で祈る。その一連の動作の中に込められた誠意は、何時間お参りしたかということと同等以上に尊いものです。すぐ帰らざるを得ないという状況に対して後ろめたさや罪悪感を抱く必要はまったくありません。ご遺族にとっても、忙しい合間を縫って駆けつけてくれたその姿勢自体が、大きな慰めとなりますね。
4-2 通夜・告別式で「途中で帰る・早退する」際の大切な作法とマナー
>葬儀を途中で早退する際のマナー
無言で静かに立ち去ったり、式の進行を乱すような動き方をしてしまっては、周囲やご遺族に不要な困惑を与えてしまいます。仕事と参列を両立させるための、すぐ帰る際の具体的な作法を押さえておきましょう。
- 受付での事前の申し出式場に到着したら、まず受付で芳名帳(ほうめいちょう)に記帳を行う際、対応してくださる親族や受付の方へ静かに事情を伝えます。言葉添えの例:「本日は叔父のお見送りに駆けつけさせていただきました。大変恐縮なのですが、この後どうしても外せない仕事がございますため、焼香を済ませましたら途中で失礼させていただきます」あらかじめ受付に伝えておくことで、ご遺族にも自然に理解していただけます。
- 退席しやすい「後方・出入口付近」への着席式場内へ入ったら、中央や前方の席ではなく出入口に近い後方の席へそっと着席します。焼香の順番が巡ってきたら静かに前へ進み、深く頭を下げて香をくべます。焼香を終えたら席へ戻り、一礼をしてから静かに荷物を持って退席する。式進行の妨げにならないよう、足音や扉の開閉音を立てない気遣いが大切ですね。
- 通夜振る舞い(会食)の辞退とお詫び通夜の後に通夜振る舞いと呼ばれる食事が用意されている場合、ご遺族や関係者から勧められることがあります。供養の一環ではありますが、仕事に戻る必要がある場合は無理に席につく必要はありません。言葉添えの例:「お心のこもったお誘い、本当にありがとうございます。本来であればお付き合いさせていただくべきところ、仕事へ戻らねばならず、本日はこれにて失礼させていただきます」一口お茶をいただくか、丁寧にお辞儀をして辞退すれば、マナー違反になることは決してありません。
- ご遺族・喪主への手短な挨拶退席するタイミングで喪主やご遺族とお話しできる機会があれば、「本来であれば最後までお見送りすべきところ、仕事の都合によりお先に失礼いたします。叔父には大変お世話になりました」と手短にお悔やみと感謝を伝えます。言葉を多く交わすことよりも、一瞬の真摯な眼差しとお辞儀こそが、お互いの負担にならない最高の作法となりますね。
長くその場に留まることだけが供養ではありません。
わずかな時間でも駆けつけ、手を合わせたその瞬間に、あなたの真心は深く刻まれています。
第5章 キヨカマの実体験|姉が両親の葬儀で早々に仕事へ戻っていった理由
第5章 キヨカマの実体験|姉が両親の葬儀で早々に仕事へ戻っていった理由
今から数年前、私自身の家族の間でも、今、この記事を読んでくださっているあなたと同じような葛藤を抱えた出来事がありました。対象は叔父ではなく、私自身の両親です。
姉は県外で、シングルマザーとしてパート勤めをしながら暮らしていました。両親の介護から看取りにかけての時期、姉はシフトの都合でなかなか実家に帰ってくることができませんでした。正直にお伝えすると、当時の私は、そんな姉に対して不満を抱いていたんです。
しかし、ほぼ寝たきりだった母は、違うことを考えていました。「元気で仕事してしっかり生活していてくれさえすれば嬉しいし安心する。無理して疲れた顔を見せに帰ってこなくていい」――母は、姉にそう言い続けていたのです。姉自身も、そういう母の性格をよく分かっていたからこそ、あまり実家に帰らなかったのだと思います。
両親それぞれの通夜・告別式には、姉も参加してくれました。ただ、早々に実家を後にしていったんですよね。
「帰るね」
姉がそう言ったとき、私は「うん、わかった。後のことは心配いらないからね」と返しました。すると姉は、こう話してくれたんです。
「泣き顔ばかり見せても母が悲しむだけだから。しっかり仕事している姿を見せて、天国の母に安心させるの」
正直、当時の私は、その言葉の意味を半分くらいしか分かっていなかったように思います。ですが今では、身内が心身をすり減らしてまで無理に参列や帰省をすることを、故人もきっと悲しむのではないか、と考えるようになりました。
参列の形は、決して一つではありません。長くその場に留まることだけが弔いではなく、短い時間でも駆けつけること、あるいは駆けつけられなかったとしても懸命に日々を生きるその姿そのものが、故人への何よりの手向けになることがあります。姉が「仕事をしている自分」を見せ続けたことも、母への深い愛情の形だったのだと、今の私は思っています。
キヨカマの実体験|姉が両親の葬儀で早々に仕事へ戻っていった理由

第6章 忌引休暇の本当のところ
万年人手不足の現場でシフトを守りながら、遠方の葬儀という突発的な事態に直面したとき、「慶弔なのにどうしても休暇が取れない」「パートだから休みを申請しづらい」という行き場のない孤独感に苛まれることがあります。
制度や社会的な慣習の仕組みを正しく知ると、感じている生きづらさや罪悪感は、個人の姿勢の問題ではなく、労働制度の枠組みや地域・宗派のしきたりによって生じている現実が見えてきますね。
6-1 労働基準法と就業規則の実態――なぜ慶弔で「休暇が取れない」のか
パートやアルバイトといった非正規雇用における慶弔休暇の現実を見ると、慶弔休暇制度自体が就業規則に導入されている割合は65.0%にとどまり、さらにその中で有給(全額支給)とされる割合は48.3%という調査データがあります(※一般社団法人人材サービス産業協議会の調査に基づく数値)。パート・アルバイトの約3割強の職場では慶弔休暇の制度そのものが存在せず、制度が存在する場合でも過半数は無給または欠勤扱いとなるのが実態なんですよね。
6-2 地域差と宗派差がもたらす参列の「空気感」
【地域による慣習と形式の違い】
- 一般葬(東北等) vs 家族葬(首都圏等)
株式会社ディライト「地域ごとの葬儀の風習の違い」調査(2024年10月)によれば、東北地方では地域社会や親族のつながりを重視した「一般葬」が57.5%と過半数を占めるのに対し、首都圏では近親者のみで執り行う「家族葬」が52.2%と主流になっています。遠方の叔父様が東北在住である場合は「3親等であっても一族として参列して当然」という期待値が高くなりやすい一方、首都圏であれば参列辞退と香典送付という形がスムーズに許容されやすい空気感がありますね。
- 火葬のタイミング(前火葬)
同調査によれば、東北地方などでは、葬儀・告別式の前に火葬を行う「前火葬」が3割以上(全国平均は約1割)にのぼるというデータもあります。日程の確認を怠ると「通夜に駆けつけたつもりが、すでに火葬が終わっていた」という行き違いが生じる可能性もあるため、事前の日程確認が不可欠です。
- 通夜振る舞い(関東 vs 関西)
関東では通夜の後に一般参列者も含めて食事(通夜振る舞い)に招くのが一般的ですが、関西では通夜振る舞いは家族や親族のみで行われ、一般参列者は焼香後にすみやかに帰宅するのが通例となっています。
【宗派による「告別式」の捉え方の違い】
宗教や宗派の教義によっても、式の位置づけは異なります。
例えば「浄土真宗」では、亡くなった人は四十九日を待たずに即座に阿弥陀如来の導きによって往生(おうじょう)するという教えに基づき、他宗派のような追善供養(死者の冥福を祈る儀礼)ではなく、阿弥陀如来の救いへの感謝を捧げる場として儀式が営まれます。この教義の違いから、式の位置づけや重みの置き方は宗派によって異なります。曹洞宗や日蓮宗などでは「葬儀式」と「告別式」を分けて考え、告別式を故人との最後のお別れの場として重んじる傾向がある一方、浄土真宗ではその意味づけそのものが異なる、という理解が実務上は自然です。
制度の限界や地域・宗派のしきたりという背景を客観的に知ることで、何が何でも全休をとって駆けつけなければ非礼になるというプレッシャーから自らを解放し、置かれた環境に応じた納得のいく選択肢を選び取るための大きな助けとなりますね。
あなたが感じていた重圧は、個人の責任ではなく制度や地域の慣わしが作った壁。
その仕組みを知ることで、どうかご自身を許してあげてください。
第7章 「応援を頼めるのに、それでも動けない」という罪悪感の正体
「他店から応援をお願いすること自体は、きっと可能だと思う」
相談者様が残したこの言葉は、仕組みとしての解決策を知りながらも、なお身動きが取れない葛藤の深さを物語っていますね。
第1章で触れたように、パートの身で他店舗まで巻き込んでいいのかという逡巡がある一方で、本当の意味で追い詰めているのは、心の中で鋭く拮抗する「性質の異なる2つの罪悪感」の衝突です。
1つ目は、「現場を見捨てることへの罪悪感」。万年人手不足の中で日々汗を流す同僚の顔が浮かび、自分が抜けることで誰かの負担が増えてしまう、他店応援という手間をかけることで職場に面倒をかけてしまうのではないかという申し訳なさが胸を刺します。
そして2つ目は、「故人や家族を見捨てることへの罪悪感」。幼い頃に可愛がってくれた叔父様の面影や、高齢で1人長距離運転をして向かう父親の姿が浮かび、このまま仕事に行くなんて冷たい人間なのではないか、最後のお別れに駆けつけないなんて親族として申し訳ないという後ろめたさに苛まれるんですよね。
仕事をとれば葬儀への罪悪感が襲い、葬儀をとれば仕事への罪悪感が襲うという板挟みの構造。
どちらの道を選んだとしても、自らの誠実さゆえに何らかの痛みを背負わざるを得ない状態にあるからこそ、他店応援を頼むという選択肢さえも双方に大ごととして負担をかけてしまう新たな種に見えてしまい、足がすくんでしまうのです。
そうなんです、2つの罪悪感の狭間で涙を流すほど悩んでいること自体が、職場に対しても、故人や家族に対しても、妥協なく誠実であろうとしている何よりの証拠。自分を責める必要はどこにもありません。手と手を合わせて静かに祈りを捧げるとき、どうかその葛藤と優しさを持った自分を、否定せずに許してあげてください。
どちらを向いても痛む心は、あなたが誰のことも傷つけたくない優しい人だから。
その痛みを抱えながら選んだ答えを、故人は誰よりもあたたかく見守ってくれています。
第8章 まとめ・励まし
「休めない」「駆けつけられない」――その葛藤の中で自分を責め続けてきたあなたへ。最後に、もう一度お伝えしたいことがあります。
葬儀への参列は、全休をとって2日間完璧に付き添うか、いさぎよく諦めて何もかも捨てるかという二者択一ではありません。通夜のみの参列、告別式のみの参列、香典や供花の手配と家族への代理参列の依頼、あるいは短時間の参列など、職場の制約を受け止めながらも、故人への感謝を届ける第三の道は必ず残されています。
万年人手不足の現場でシフトを守り、同僚への気遣いを忘れまいとする姿も、故人の面影を胸に浮かべ、遠くから静かに手を合わせる姿も、等しく誠実で尊いものなんです。
故人を想う気持ちは、目に見える参列の形や滞在時間の長さだけで測れるものではありません。物理的な距離や職場の事情によって式場へ足を運べなかったとしても、これまで故人から受け取った温かな思い出と感謝の念が、色あせることは決してないのです。
休めない自分をどうか責めないでください。
迷い、後ろめたさに苛まれながらも懸命に今日を生きる誠意は、十分に故人へ届いています。
胸を張って、今できる精一杯の形で、優しかった故人へ感謝の祈りを捧げてみてくださいね。
遠く離れた場所からでも、作業着の胸元に手を当てるだけでも、祈りは届きます。
今日を生きるあなたの背中を、おじさんはきっと誇らしく見守っていますよ。
